エルメス マルジェラ期の名作アパレル解説 ―
マルジェラ期とは?
1997年、エルメスのアーティスティック・ディレクターに就任したマルタン・マルジェラ。前衛的で解体的なクリエーションで知られていた彼が、エルメスで打ち出したのは意外にも「徹底した日常服」でした。
華美な装飾を排し、シルエットと素材の美しさで語るコレクションは、当時“静かなラグジュアリー”と呼ばれ、今なお高く評価されています。代表的な名作としては、ヴァルーズワンピース、タートルネックトップス、Hボタン、大判ストール、そしてカリグラフィー柄シリーズが挙げられます。
ヴァルーズワンピース ― 日常をラグジュアリーに

「ヴァルーズ(Vareuse)」とは、もともと農夫や労働者の作業着に由来します。マルジェラはこの素朴な実用服を、エルメスの最高級素材と緻密な仕立てで再構築。日常とラグジュアリーを兼ね備えた名作へと昇華しました。
胸元に入った深いV字の切り込みは、髪やメイクを崩さずに着脱できるよう工夫されたもの。実用性とエレガンスの両立こそが、マルジェラ期の核心なのです。
ラムスエードモデル

ヴァルーズの中でも特に希少とされるのが、ラムスエードモデル。しっとりとした質感のスエードは、シルエットに独特の落ち感と奥行きを与えます。動きに合わせて生まれる陰影が、控えめながらも豊かな表情を引き出す一着です。
タートルネックトップス ― マルジェラ哲学の象徴

上質な素材を用いたタートルネックは、マルジェラ期を象徴するアイテムのひとつ。ロゴや派手な装飾に頼らず、シルエットと素材だけで存在感を放つデザインは、まさにマルジェラの哲学そのものです。
単体でもレイヤードでも映え、季節やシーンを問わず着こなせる万能さも魅力。シンプルであるほどに奥深い、時代を超えて支持される理由がここにあります。
ストール ― 実験精神とユニセックスの美学
ポケット付きモデル

大判ストールにポケットを加えるという遊び心あふれるデザイン。アクセサリーとしての枠を超え、日常に機能する“ウェア”としての役割も担います。
ヘリンボーンモデル

クラシックなヘリンボーン柄は、身につけるだけでコーディネートに奥行きを与えてくれる万能アイテム。男女問わず自然に取り入れられるユニセックスな魅力が、今も高い人気を集めています。
カリグラフィー柄 ― 言葉ではなく視覚で語る服

マルジェラ期を象徴する実験的デザインのひとつが「カリグラフィー柄」。手書き風の文字が布地全体に施され、意味よりもリズムや質感として存在しています。
シンプルなシルエットにアート的な奥行きを加えるこの柄は、マルジェラの「日常で語る服」という思想を視覚的に表現したもの。静謐でありながら強い個性を放つシリーズとして、今もファンを惹きつけてやみません。
まとめ ― “静かなラグジュアリー”の真髄

エルメスのマルジェラ期アパレルには、「控えめでありながら豊かさを感じさせる」独自の美学が宿っています。ヴァルーズワンピースの機能美、タートルネックのシンプルな普遍性、カリグラフィー柄の実験性、ストールに込められたユニセックスの要素――。
それらはすべて、時代や性別を超えて愛される普遍性を持ち合わせています。20年以上が経った今もなお、世界中のファンに支持され続ける理由は、この“静かなラグジュアリー”にあるのです。
